研究・報告

韓国における防衛費分担金(米軍駐留経費)をめぐる米韓交渉 ―韓国からの報告― <抄録>

*この抄録は2020年8月7日に開催されたNDオンラインイベント「韓国における防衛費分担金(米軍駐留経費)をめぐる米韓交渉―韓国からの報告—」講演内容をまとめたものです。

引用するに当たってはND公式YouTubeに掲載されている講演記録動画を必ずご確認ください。

 

講師:パク・ジンソク(韓国・法務法人DLSのパートナー弁護士、第11次韓米防衛費分担金特別協定対応方案国会討論会発表者)

【講演抄録】

本日は、韓国における防衛費分担金特別協定の交渉経緯について簡単にご報告させていただきます。まず初めに、駐韓米軍の駐留費用に関する法的な問題・原則等について見ていきます。その後、2018年から始まった第10回協定に関する協議についてと、2019年より始まった第11回協定に関する協議の経緯についてお話しいたします。

■韓米地位協定上の駐韓米軍駐留費用負担の原則

まず、韓米地位協定上の駐韓米軍駐留費用負担の原則ですが、韓米地位協定(SOFA)第五条第1項に、駐韓米軍の維持に伴う全ての経費はアメリカが負担すること、そして第二項において韓国は施設と区域、すなわち基地を提供さえすればよいと規定されています。したがって地位協定上、韓国は駐韓米軍駐留費用を負担する法的な根拠は無いはずなのです。ところが現実には韓国は負担しています。なぜでしょうか。

そのきっかけは1990年代、アメリカが財政赤字と貿易赤字の二つの赤字を背負ったことにあります。アメリカは韓国の経済力が一定程度あがったので、駐韓米軍駐留費用の一部について負担をするようにとの要求を突きつけるようになりました。ここで問題となったのは、先程ご説明した韓米地位協定SOFA第5条の「韓国はその費用を負担する必要がない」という規定でした。SOFA第5条違反を回避するため、アメリカと韓国は法律と同一の法的効力を持った特別協定を締結しようということになりました。こうして1991年1月、第一次防衛費分担特別協定が締結されるに至ります。これは法律と同等の効果を持つことになりますから、防衛費分担金特別協定も韓国国会の承認を得なくてはならないことになっていました。

以上を整理すると、まず、特別協定を締結することにより、形式的にはSOFA第五条違反という問題をクリアしました。しかし、実質的には防衛費分担金とは異なる駐韓米軍駐留費用という形での不当な転嫁になったと言えます。韓国の市民社会は、防衛費分担特別協定と名前を変えた不当な転嫁であるとして抗議の声を上げています。

次に、この防衛費分担特別協定が何回締結され、そしてどれくらい増額してきのかについて見ていきましょう。1991年から2019年までの間に計10回、防衛費分担特別協定が締結されています。第1回から7回(1991年〜2008年)は2〜3年単位で、第8回〜9回(2009年〜2018年)までは5年単位で締結され、そして第10回(2019年)は1年単位で締結されています。なぜ1年に短縮されたのかについては、また後ほどご説明したいと思います。金額ですが、1991年の1073億ウォンから2019年には1兆389億ウォンへと、約10倍増加しております(通訳注:日本円は一桁下げる)。つまり、この30年間で10倍となりました。 

■防衛費分担金特別協定の構成と特徴

ここからは防衛費分担金特別協定の構成と特徴について見ていきます。韓国の防衛費分担金特別協定は、三つの項目で構成されております。まず一つ目は、人件費支給項目です。これは米軍が雇用した韓国人労働者の賃金に当てられます。米軍人軍属の賃金は対象とはならず、韓国人労働者の賃金を賄うというのがポイントです。二つ目は、軍事建設支給項目です。これは基地や施設の改善・建設事業の支援です。三つ目が軍事支給項目で、軍事物資や基地運営費用などに支払われます。

最初の人件費支給項目については、現金で韓国政府が負担します。この項目は防衛費分担金全体の38%から39%を占めています。2つ目と3つ目の軍事建設支給項目や軍事支給項目については、原則的には現物支給、すなわち米軍側が必要としている物資を、現物を以って支払う・支給するというものです。つまり、米軍側が新しい軍事施設や建物が必要であると言った場合、韓国側がその建物を建てて、その建物を米軍側に供与することになります。ただし、設計に関しては米軍側がおこない、韓国はその費用を負担します。具体的には、米軍側が設計事務所を選定し、そこに韓国政府が費用を支払うという形になります。その後、設計図面に基づいて実際に建てるという段階になったら、次は韓国政府が建設会社を選定し、その会社に韓国政府が費用を支払って建設し、建物を米軍側に渡す。軍事建設支給項目は分担金全体の約44〜45%、軍事支給項目については約16〜17%を占めています。

このように防衛費分担金特別協定の項目は3つの項目で成り立っていますが、一つ一つの項目についていくら必要であるかを協議するのではなく、総額について協議をする、総額協議方式が取られています。したがって、米軍側が各項目別にこれこれが必要なのでこれこれの費用を要求しますというのではなく、前年の協定の金額に対し何%あげて欲しいというように米軍側から要請されます。つまり総額がまず決まり、その後、各項目にいくら割り当てるかが決まる、という順序です。

ところが、このような総額協議方式を採用した結果、毎年のように余剰が発生してしまうことになりました。米軍側は全てを使い切れているわけではないのです。このように余剰が生じているにも関わらず、米軍側の増額要求に対し韓国政府が応えるという異様な事態がこの間ずっと続いてきました。たとえば分担金を1億ウォンとする協定が締結され、実際に執行されたのが8000万ウォンであれば、次年度は8000万ウォンであるべきですが、次年度は1億2000万ウォンという具合に非常に不合理な協定が結ばれてきたという経緯があります。さらに、余剰分は次年度に持ち越しとなります。

韓国では予算が執行されなければ、その分は取り消され、持ち越しというのはありません。日本でもそうなっているかと思います。ところが、この防衛費分担金については、残ったお金が取り消されるのではなく、次年度に持ち越され、そして継続的に累積していくという異常な状態になっています。余剰金の累積額は2018年末の時点で1兆8469億ウォンと推測されます。この1兆8469億ウォンというのは、一つの年度の防衛費分担金に相当します。それにもかかわらず、新たに協定を締結し、また分担金を支払うという不可解な事態が続いています。

韓国政府は、累積されている分が残っているのですから、次年度は防衛費を分担しないという提案をすることも十分に可能でしょう。しかし、そのような提案はなされてこなかった。それに対し韓国の市民社会は、累積分があるのだから改めて防衛費分担金を米軍側に支払う必要はないのではないかと提案をしています。この累積額の問題は、防衛費分担金特別協定をめぐる重要な論点の一つとなっています。

20192月に締結された第10回協定

ここからは最近の協議について見ていきたいと思います。2018年末をもって第9回協定が終了し、2018年3月から第10回協定の協議が始まりました。本来であれば2018年に入る前に第10回協定について締結がされなければならなかったのですが、反対意見があまりにも多かったため、第10回の協定はその前の協定の終了から1年2ヶ月がすぎた2019年2月になって締結されるという例外的なことが起きました。協定案は2019年2月に韓国国会に提出され、2ヶ月遡って2019年1月から執行となりました。

協定協議が長引いた、あるいは協定に反対の声が上がった背景には、アメリカの無理な要求がありました。まずアメリカは、防衛費分担金を2倍、すなわち2兆ウォン台に増額せよとの要求を突きつけてきました。最終的には、米軍側は1兆1300億ウォン、前年度比17.7%増を提示したわけですが、それでも増額率が20%近いというのは、他の年度に比べても高い。こうした高い増額率が問題になったのはもちろんのこと、さらに問題となったのが作戦支給項目の新設です。

先ほどご説明した通り、防衛費分担金特別協定は人件費支給項目・軍事建設支給項目・軍事支給項目という三つの項目から成り立っているのですが、米軍側はこれらに加えて、作戦支給項目を新設せよとの要求を突きつけてきたのです。なぜこれが問題となったかというと、米本土にある核関連施設を含む軍事施設・戦略機器等を韓国に持ち込む場合のその費用と、加えて駐韓米軍の循環配置費用等についても負担せよという要求であったためです。

ここで注目していただきたいのは、防衛費分担金というのは基本的に米軍の韓国駐留費用に関する負担であるはずが、作戦支給項目については米軍の作戦展開に対する支援へと目的範囲が広がっている点です。つまりアメリカ側はそもそもの目的を著しく逸脱する形で費用負担を要求してきた、そのために軋轢が生じたのです。これらに加え、アメリカ側が協定の有効期限を5年以上に伸ばせと要求してきたことも大きな問題となりました。

協議が進む中、韓国のマスコミは韓国民の世論を調査しました。2019年1月25日に実施された世論調査では、アメリカによる2倍増要求について反対が58.7%、賛成はその半分にも満たない25.9%でした。韓国の保守勢力は協議をズルズル引き延ばしてしまうと、駐韓米軍が減縮される、あるいは撤退の可能性もあると吹聴しました。そうした保守勢力の声を背景に、マスコミはアンケート項目に、駐韓米軍の減縮ないし撤収の可能性がある場合、を付け加えました。それでも反対は52%を占め、賛成は少し上がって30.7%でした。

こうした韓国世論を受けて2019年2月に締結された第10回協定では8.2%増の1兆389億ウォンで最終合意に至りました。当初、アメリカ側が突きつけた金額には満たない金額ではありましたが、しかしながら初の1兆ウォン突破という事実を、韓国の市民社会はショッキングな出来事として受け止めました。

ただし、増額率がアメリカの当初の要求よりかなり下がった要因は韓国の市民社会による反対の声が強かったからだと分析するのは、私自身は無理があると考えています。なぜかというと、米国の要求で協定の有効期限が1年に短縮され、その代わりに米国側は総額を譲歩したからです。アメリカ側はNATOや日本との防衛費分担金の交渉を後に控えています。アメリカは韓国側と合意した増額率を前例としてNATOや日本に対しても同じように増額を迫ろうとの意図があったと見るべきだと考えます。つまり米国側の交渉戦術は、まず1年の短期で韓国と合意する。それを既成事実として、その最終合意内容を前提にNATOや日本から増額を勝ち取り、そしてこのNATOと日本の協議内容を前提として、また韓国に対し増額を迫る、このような交渉戦術を取ったとのではないかと考えています。すなわち、アメリカ側は世界的な戦略の中に韓国との交渉を位置づけ、総額は譲歩しながら1年という期間で合意を見ることで全体的な交渉を有利に進めていこうとしたのではないでしょうか。

さて、アメリカはギリギリになって交渉戦術を変え、先の作戦支給項目の新設は、表向きは放棄、実質的には一旦保留されることになりました。後ほど第11回協定について見ていく際に詳しく解説しますが、アメリカは協定期限を一年に短縮し、次の協議でまた作戦支給項目を提案しようと画策しているわけです。また、人件費負担率は上限75%だったのですが、第10回協定ではこの上限が撤廃されました。したがって人件費負担率が上がると、それにともない防衛費分担金の総額も上がる、そうした道が開けてしまったと見ることができます。

 20199月以降の11回協定に関する協議

ここからは2019年以降の第11回協定に関する協議について見ていきたいと思います。今になって振り返ると、第10回協定は第11回協定の前哨戦に過ぎなかったといえます。第10回協定は2019年2月に最終合意に至りましたが、そのたった7ヶ月後の2019年9月から第11回協定が始まりました。第11回協定に関しては、2020年3月までの期間で7回の協議が行われていますが、最終合意に至ることができず、さらに2020年3月以降、現在までに協議自体が開かれていません。

というのもアメリカが防衛費分担金を50億ドル、すなわち約6兆ウォンと5倍以上もの無理な増額を要求してきたからです。これは常識的に考えても非常に不合理な要求と言わざるを得ません。また、先ほどご説明した通り、作戦支給項目新設も何度も要求してくるようになりました。またこれに飽き足りず、駐韓米軍はもちろんのこと、軍属の人件費まで負担せよとの要求を突きつけてきました。これらの点については、協議当局者から裏を取った話ではありませんが、ただ、50億ドルもの増額ということを考えると、駐韓米軍はもちろんのこと軍属の人件費負担まで要求されていると理解できるでしょう。また、アメリカのインド・太平洋戦略への支援まで含まれているとも言われています。

日本でも報道されたかと思いますが、アメリカの要求はその当該国における防衛費の負担だけではなく、アメリカの世界戦略における費用も負担させる形へと質的に変わってきています。すなわち、韓国は韓国の防衛費について負担すれば良い、ということではなく、アメリカの世界戦略の費用負担もせよ、というのが、アメリカ側の考えなのではないでしょうか。

この第11回協定に対する韓国国民の世論は、第10回協定よりも更に否定的なものとなりました。2019年1月、国内メディアは、あなたは駐韓米軍が減縮ないし撤収の可能性がある場合、増額についてどう考えるか、といったアンケート調査を行いました。同じような質問は、第10回協定の時にも行われ反対は57%でしたが、10ヶ月程が経過した時点でのアンケートでは反対は68.8%へと急伸しました。つまり、駐韓米軍減縮ないし撤収の可能性があったとしても、米軍の要求を受け入れるべきではない、という意見が全体の約70%にのぼったわけです。なお、賛成は22.3%に下がりました。ということは、賛成意見の3倍も反対意見が寄せられたのです。

翌月、アメリカのシンクタンクによる世論調査が行われました。韓米同盟の支持、ないし駐韓米軍を支持する世論が多数を占めたのですが、しかしながら、アメリカの防衛費分担金要求に関しては、ほとんどの人が反対でした。とりわけ海外米軍費用の支援、すなわちアメリカの世界戦略について費用を負担するということについては74%が反対でした。

このように協議が遅々として進まない中、駐韓米軍は2020年2月28日、基地内の韓国人労働者に対して4月1日付けで無給休職とするとの事前告知を出すという行動に出ます。これは韓国労働者に賃金を支給しないと宣告することで韓国政府、そして韓国民に圧力かけたと受け止められています。このような流れの中、米韓の各当局は2020年3月末、暫定合意を模索しました。協議団代表らは、初年度は15%の増額、2024年まで延べ7~8%増額という案で合意しました。これは第10回協定より高い増額率です。韓米協定代表団は、韓国人労働者の無給休職をどうにかして食い止めようと努力をしたのです。

しかし、トランプ大統領はこれを認めず、その結果、2020年4月1日付けで、韓国人労働者の無給休職が実施されることになりました。この措置は韓国内の反対世論をより強化させました。つまり、アメリカのこうした対応のために韓国の「アメリカの要求を受け入れるべきではない」という声はより一層高まったのです。そうした中、韓国政府は韓国人労働者に給与を支給すると提案し、駐韓米軍もこれを受け入れました。それにより2020年6月中旬、この争いについては終結をみました。韓国政府が支給した金額は、最終合意に至った金額から控除するとの合意がなされています。

さて協議自体は2020年3月以降、開かれていません。アメリカの要求について米国側はその要求額を下げてはいますが、やはり高い水準にとどまっているため、韓国政府としては受け入れることができないとし、交渉は停滞したままとなっています。私の個人的な見解ですが、韓国政府がこのように交渉を引き伸ばしているのは、韓国側には焦る理由がないからではないでしょうか。その背景には、トランプ大統領は再選しないのではないかという韓国政府側の見立てがあると私自身は考えています。以上で私の報告を終えたいと思います。

【質疑応答】 

――韓国では保守とリベラルによる政権交代のたびに政府の駐留経費問題についての立場が変わり今日に至っている、という理解でよろしいでしょうか?

パク・ジンソク(以下、パク)  結論を先に述べますと、政権交代が防衛費分担金協定に影響を及ぼしたとはいえません。先のシンクタンクによるアンケート調査を思い出してください。韓国では韓米同盟支持は多数にのぼります。したがって時の政権が保守であろうが、進歩革新であろうが、駐韓米軍の存在を前提とせざるを得ないわけです。米軍の駐留については致し方がない、一定程度の負担も致し方がない、ただその費用額については合理的な水準にとどめられるべきである、これが大多数の韓国民の意見だと思います。

こうした世論が背景にありますので、進歩的と言われた金大中大統領や廬武鉉大統領の政権でも、防衛費更新の際には増額を受け入れざるを得ないという立場でした。ところがトランプ政権になり、とても納得することができない増額要求がアメリカ側からなされ、それに対し韓国民から不合理だとの声が上がったと理解するのが正しいかと思います。

第10回と第11回協定の交渉が停滞し、なかなか合意に至らなかった背景には、時の韓国側の政権がどうかといった話ではなく、トランプ大統領の要求額があまりに高いためだと考えております。

――ちなみに日本のNHKが最近実施した在日米軍駐留経費の負担増額に関する世論調査によると、賛成は17%です。米軍が撤退してもよいかどうかは問われていませんが、増額は必要ではないが81.3%です。さて今回、韓国政府がアメリカの要求に抵抗し続けているのは、デモやイベントなど、国民から強い反対の動きがあったからでしょうか。

パク 第10回、そして第11回の協定に際しての反対デモには私も参加しました。その感触を申し上げますと、第10回よりも第11回のほうが国民の声や関心、デモの規模などが大きくなったように感じます。

以前はそんなに不合理な金額ではなかったということもあり、防衛費増額負担については、半島統一をめざす団体や平和運動団体の一部から反対の声が上がってはいたものの、一般市民の関心は薄かったのではないかと思います。

風向きが変わったのは2018年です。ご存知の通り、2度にわたる南北首脳会談、そしてシンガポールでの米朝首脳会談と、朝鮮半島の平和ムードが一気に高まった年でした。そのような中、防衛費負担は必要か、増額は本当に必要なのかという素朴な疑問が市民から沸き上がりました。

また、アメリカから作戦支給項目という従前の枠組みを逸脱する要求があり、マスコミもこれは問題にすべきではないかということで、報道も増えていきました。こうした、言わば相乗効果のようなものが、反対の声が高まる要因になったといえます。

すなわち2018年の平和ムード、そしてマスコミの報道努力が市民の関心を呼び起こしたと整理できるでしょう。ただ、第11回協定に対する関心の高まりは、第10回のときとは質が異なります。

というのも、2019年以降、南北ないし米朝の軍事的緊張が徐々に高まっていったにもかかわらず、駐留経費増額要求に対する反対世論は大きくなっていったからです。その背景にはアメリカ側が50億ドルという、あまりに不合理な数字を要求してきたことあります。

象徴的なところでは、第10回の時は保守側勢力にはアメリカの要求を呑むべきではないかとの声がまだあったのですが、第11回協定の際には保守側でもそうした声は高まりませんでした。

整理しましょう。第10回の時は一般市民というより統一や平和を目指す運動団体が中心で、それが韓国政府をどこまで動かしたかといえば、ある程度限定的に見る必要があると思われます。第11回協定に関しては、より一般的な市民にも反対世論が浸透し、ご指摘のように、それが韓国政府をエンパワーメントしたといえるでしょう。

――世論調査では仮に在韓米軍が削減されたとしても、増額には賛成できないという意見が圧倒的に多いことが示されたわけですが、在韓米軍の撤収、あるいは削減に対する支持は、どのくらいあるのでしょうか?また、米軍が撤退すると北朝鮮が攻めてくると思っている人は、韓国ではどの程度いるのでしょうか?とはいえ、韓国政府としてはアメリカ政府に在韓米軍を減らしてもいいよとは、やっぱり言えないのではないか。そうだとすると、それはなぜだとお考えになりますか。

パク 韓国では米韓同盟、あるいは駐韓米軍の駐留駐留への支持は70~80%あります。それにもかかわらず、駐韓米軍の減縮ないし撤収の可能性があってもアメリカの要求を呑むかとなると、反対意見が多い。その理由は、米軍が韓国に駐留駐留しているのは韓国の防衛目的だけでなく、アメリカにとってもメリットになっているからではないかと考えている韓国市民が一定数いるからだと思います。

つまり米軍は韓国の防衛のためだけに駐留駐留しているのではなく、むしろ米国側の利益が主であり、韓国の防衛については副次的なのではないか。米韓同盟支持、あるいは駐韓米軍の支持率の高さと、撤収の可能性があってもアメリカの要求は呑まないという意見が高いことの関係を考える上で、韓国市民のこうした認識を理解する必要があるでしょう。

韓国市民には、駐韓米軍が撤収すると北が攻めて来る、だからアメリカの要求を呑まなければいけない、といった単純なイコールで結んでいる人は、非常に少ないのではないかというのが私個人の見解です。

そのように考えている理由は、米軍が撤収したとしても、そもそも北は攻めて来ないだろう、そして仮に北側が攻めて来たとしても、国力の上で優っている韓国、あるいは韓国軍が、北からの侵略に簡単に負けるわけがないという一定のコンセンサスが韓国市民の間に根付いているのではないかと思われるからです。

つまり米軍の韓国駐留は安全保障の均衡を保つために一定程度の役割を果たしているだろう、しかし米軍が撤収するからといってそのバランスがすぐさま崩れるというような関係にもないだろう――これは私個人の認識であって、すべての韓国国民の声を代表するものではありませんが、このような考え方が韓国市民には多いと思います。

日本の皆さんにも、韓国から米軍が撤収したら北が攻めて来るのではないかというのは、既に古い考えになっているということをご理解いただければと思います。

――沖縄に基地がなくなったら中国が攻めてくると、沖縄の人以外の大半の日本の方は認識しているといった調査結果があります。韓国の方々が、どう先のような考えに至ったのか、それを伺う機会をまた、設けられればと思います。では、最後の質問です。これから日米間で駐留経費についての交渉に入るわけですが、日本の政府とか市民に期待すること、ないし一緒にやれればいいのではないかといったことがあれば、ご提案いただけますか。

パク まずトランプ再選を防ぐのが肝要なのではないかと思っています。お話した通り、市民の声は重要です。韓国では韓米協議が開かれる時は、その建物の周辺でデモが起きます。協議がアメリカで開かれる時は、在韓米国大使館周辺でデモが起きます。それらをメディアが熱く報道することにより、市民の注目度も上がります。こうした声がアメリカ政府を動かすとは、なかなかならないとは思いますが、しかし自国政府を後押しし、一定程度、エンパワーメントすることにつながるでしょう。

既存の運動団体や問題意識を持っている団体が先頭に立って声を上げる、マスコミがそれに注目し報道することで、それまで関心が無かった層にもこの問題が浸透し、関心を持つようになる――このような有機的な連関が韓国社会では起きています。日本の社会でも、そのような有機的な動きが生まれることを期待しております。

また日韓は互いに関心を持つべきだと思います。先程お話ししたように、アメリカの目的は、その交渉相手が韓国であろうが、NATOであろうが、日本であろうが、自国の世界戦略と覇権維持にあり、その同じ目的の下で韓国ともNATOとも日本とも交渉しているという本質を見極め、声を上げていかなければいけないと考えております。米軍駐留費の増額要求に対し、例えば日本と韓国の市民団体が共同で反対声明を出すなど、この分野では国際的な連帯が今まで以上に必要になってきていると思います。

最後に、ひとつ補足させてください。新型コロナウイルス対策のために、実は韓国でも従来型の街頭デモは難しくなっています。そうした現状において、運動を具体的にどう展開していくべきか、私たち自身もさらに考えを深めて行かなければならないと思っています。

――韓国と日本は今、非常に難しい関係になってしまっているのですが、こういったところでうまく手を繋ぐことができればと考えます。今日はそのための一歩であり、これを機会にいろいろなイシューでご一緒できればありがたいです。

パク 私も皆様のご高見を拝聴させて頂きたいと思っております。今後とも宜しくお願い致します。