研究・報告

プルトニウムの保有がアジアおよび世界の 安全保障にとって持つ意味合い

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      米・ジョージワシントン大学研究教授
シャロン・スクワソーニ(Sharon Squassoni

1.原子力:避けようのない軍民両用の二重目的性 

原子力は、必然的に軍民両用の二重目的性を持つ。核分裂性物質、つまり、濃縮ウランと分離済みプルトニウムは、軍民両用の目的を持つ。同じ核分裂性物資でも他のものより核兵器にとって都合の良いものはある。ウラン235の含有量が90%以上の高濃縮ウランや、プルトニウム240と241に含有量が比較的少ないプルトニウムは、兵器級核分裂性物質とみなされる。

2.どこで線を引くか。アチソン=リリエンソール報告 

真の問題は、すべてが軍民両用であるなら、どこで線を引くかだ。核燃料サイクルの一部は、他の部分よりセンシティブで危険性が高い。高濃縮ウランとプルトニウムを単に監視するだけでいいのか。あるいは、その製造、保有、使用などを制限・禁止すべきかどうかという問題だ。75年近く前、核兵器開発直後の1946年に、アチソン=リリエンソール報告という記念碑的文書が作成された。作成に当たった専門家グループにはJ・ロバート・オッペンハイマーが入っていた。報告書は、核燃料サイクルの活動を「安全なもの」と「安全でないもの」に分けた。「安全なもの」には、相当数のものが含まれていた。

時とともに、私たちの考え方が変わっていったということを指摘しておきたい。1946年には、放射性アイソトープ(放射性同位元素)、小さな研究用原子炉、いわゆる「変性[=核兵器に使えない]」核分裂性物質(低濃縮ウランや原子炉級プルトニウム)などは、すべて、核燃料サイクルの「安全な」方に属し、これらの活動は、監視することが可能だと考えられていた。

「安全でない」側には、ウラン採掘・粗精錬・濃縮、増殖炉(消費した以上の量のプルトニウムを生み出す高速炉)、再処理工場(使用済み燃料分離工場)、そして、核兵器研究・開発があった。1970年核不拡散条約(NPT)で禁止されているのは、核兵器またはその管理の移譲、核兵器の製造あるいは取得、それに、これらの兵器の製造の援助を求めたり、受領したりすることだけだ。これは、核兵器の研究開発(R&D)を禁止するものと解釈することができるかもしれないが、条約は、ウラン採掘・粗精錬・濃縮、増殖炉、再処理工場などが一国で行うには危険に過ぎるとの結論を下していないことは明らかだ。

3.忘れられた教訓

アチソン=リリエンソール報告は、主として、原子力の国際管理、そして、核兵器の拡散とそれから来るリスクを減らすことに焦点を当てるものとして記憶されている。報告書は一部の事象については正しいが、間違っている部分もある。報告書は、核兵器が国家にとって魅力を持ち続けるであろうことを正しく予測した。広島・長崎への原爆投下からわずか1年の時点であったにもかかわらず。また、原子力の平和利用を確保するには、広範な査察の努力が必要となるとの結論を下していた。しかし、報告書の執筆者らは、そのような広範な査察は可能ではないことを知っていた。だらかこそ、彼らは、核燃料サイクルの中の「安全でない」とみなされた部分を「国際(管理)化」することを楽観的に提案したのだった。だが、実際には、「国際(管理)化」はほとんど起きていない。また、アチソン=リリエンソール報告は、プルトニウムの「変性」に関して完全に間違っていた。プルトニウムは、同位体組成を変えることによって核爆弾における使用を不可能にすることはできないのだ。報告書はまた、低濃縮ウラン(ウラン235の含有率が6%以下の場合)に関して、直接核爆弾に使うことができないと想定したのは正しかった。実際、高濃縮ウランを低濃縮ウランにするという米ロ協力プロジェクトは、この考え方に基礎を置いたものだ。しかし、このような低濃縮ウランは、さらに濃縮して核兵器に使えるようにすることができるから、追跡して監視する必要があるのだ。これらは、アチソン=リリエンソール報告の忘れられた教訓だ。

過去75年間で我々は何を学んだだろうか。我々は、プルトニウムは「変性」させられないことを知っている。我々は、原子炉級プルトニウムは、核爆弾で機能することを知っている。米国の核実験プログラムで実証されたとおりだ。52年前、核不拡散条約(NPT)は、ウラン濃縮や使用済み燃料の再処理を禁止しなかった。

それから間もない1974年、インドが核兵器の実験を行った時、核関連機器・物質・技術の供給側に立つ国々は、濃縮と再処理の拡散を止める必要性を認識した。これらの国々は、その目的のために、「核供給国グループ(NSG)」を設立し、今日でも、その努力を続けている。

我々は、また、プルトニウム・リサイクルのコストは非常に高いことを学んだ。原子炉でプルトニウム燃料を使うのもそうだし、最終処分のコストも高くなる。プルトニウムは混合酸化物(MOX)燃料にすることができるが、使用済みMOX燃料は、熱(中性子)軽水炉からのものよりさらに放射能が高くなるのだ。

4.多国籍化?

核燃料サイクルの「国際(管理)化」に関しては、我々は、多国籍濃縮及び再処理の経験を持っている。URENCOやユーロケミックがそうだ。どちらの実験も、核拡散問題を解決しはしなかった。URENCOの場合は、AQ・カーン―パキスタンの核兵器の父として知られる―が、URECOから供給グループ側の情報を盗んでパキスタンの核兵器プログラムに使い、そしてさらに、1990年代末から2000年代初頭にかけて秘密の供給ネットワークを発展させた。ユーロケミックは、再処理技術の拡散に関し、明確な影響は与えなかったが、化学的分離に関連した技術的な秘密は少ない。

5.我々の現在地

現在のイランとの交渉状況は、NPT がいかに弱いかを示している。そして、「包括的共同行動計画(JCPOA)」は、さらにどれほど多くが必要かを示している。JCOPAは、保有量、濃縮レベル、能力の高い遠心分離機の研究開発などの制限、遠心分離機の保有量・組み立ての監視を定めている。これらは、すべて、一つの国の能力を制限するのに必要だ。なぜなら、NPTには何も制約が規定されていないからだ。一方、高濃縮ウラン(HEU)を最小限にするための規範・基準は、「核セキュリティー・サミット」の下で得られている。残念ながら、米豪の間で原子力潜水艦技術を共有するという最近の取り決め(AUKUS)は、規範は限定的なものであることを如実に示している。規範は、HEUの民生用利用に関するものであって、軍事用利用のものには適用されないのだ。HEUを軍事用の非爆発目的と呼ばれるもの―海軍の艦船用原子炉―に使う国が増えることを奨励するという状況は、HEUの最小限化の規範がいかに限定的なものであるかを示している。

プルトニウムに関しては、これを最小化するという制約も国際的規範も存在しない。「国際プルトニウム管理指針」(INFCIRC/549)があるが、これは、一部の国が自発的に民生用保有量について公表する仕組みだ。20年間実施されてきているが、これに参加する国々の間で、どのような情報を提供するかについて差異が見られるようになっており、情報の公表に関して特定の書式も定められていない。例えば、中国は、ゼロでないとしても、わずかしか公表していない。だから、ここには弱点がある。

6.日本はユニーク

日本は、核兵器を持っていない国の中で、唯一、ウランを濃縮し、使用済み燃料を再処理している。非核兵器国で大量のプルトニウムを保有している唯一の国だ。また、原子力計画と保有する核物質に関し、透明性を促進してきた数少ない国の一つでもある。

7.透明性の歴史

日本は、余剰プルトニウムを持たないとの方針を採用した1991年以来、長年に亘る透明性の歴史を持っている。その後、1994年には、分離済みプルトニウムと使用済み燃料内のプルトニウムについての情報が公開された。そして、1997年には、日本は、「国際プルトニウム管理指針」の取り決めに参加した。政府は関与のレベルをゆっくりと、少しだけ上げてきており、産業側に対して、そのプルトニウム消費計画に関する指導を少しだけ強化している。2018年に日本は、初めて、プルトニウム保有量を減らし、需給バランスを維持すると述べた。

8.米国の現在の立場

米国と日本は、先進原子力での協力の長い歴史を持っている。最近では、これをさらに強固にした「米日気候パートナーシップ」が、先進原子力での協力を謳っている。バイデン政権が焦点をアジア及びインド太平洋に当て、原子力を積極的に推進していることからすると、さらなる協力が待ち受けていると見ていいだろう。米国のエネルギー省内部では、昔から、原子力を推進する部門(「原子力局(ONE)」)とその結果に対処しなければならない「国家核安全保障局(NNSA)」(現在は元サンディア国立研究所の高官ジル・フルービーがトップを務める)の間に緊張関係がある。NNSAは、分離済みプルトニウムの増大と再処理について懸念を抱くだろうが、

先進型原子炉にとっての再処理の利点を支持するONEと闘わなければならない。米国は、再処理を何年も行っていないが、現在は先進型原子炉用の燃料リサイクルのために再処理を検討している。

9.米国議会の役割

米国議会は、これらの問題の多くについて公式的な役割をほとんど持っていない。米日原子力協力協定が無期限に延長されてしまい、議会の側からの監督を必要としていなからだ。しかし、そのことは、議会のメンバーらが、プルトニウムと再処理を巡る日本の行為が他の分野に与える影響について敏感でないということを意味しない。そのうちの一つが米韓原子力協力であることは間違いない。国防と安全保障の分野では、議会とバイデン政権は、中国の核の近代化を非常に心配している。中国がその核兵器保有量を3倍にするかもしれないとの最近の予測は、中国がすでに大量の核分裂性物質を持っているか、増殖炉で核分裂性物質を生産するだろうとの想定に依拠している。日本が同じことをする可能性、そして、韓国と北朝鮮がそれに続く可能性は明らかだ。最後に、北朝鮮に関しては、議員らは、日本におけるプルトニウム保有量の増大は、北朝鮮から見て、地域安全保障の好転と悪化のどちらを意味するのかとの問いを発するかもしれない。

10.提言

日本には、東アジアの先頭に立つ機会がある。私の調査の過程で、地域の専門家から出てきたいくつかの考え方として、日本が次のようなことをしてはどうかというものがある。中間貯蔵容量を増やす。使用済み燃料の最終処分場計画を進める。再処理の地域的モラトリアムを提唱・推進・提案する。プルトニウムの国際貯蔵所の創設に関わる。プルトニウムをもっと迅速に消費するためにプルトニウムの電力会社間名義交換をする。最後に、真の意味で需要を満たすためだけに供給を制限する仕組みを作る努力の先頭に立つ。

 

※本報告は2021年12月18・19日に開催された「英独米中韓日6ヵ国シンポジウム〈増えるプルトニウムと六ヶ所再処理工場―核燃料サイクルの現実と東アジアの安全保障―〉」に基づいています。内容と意見は報告者個人に属し、NDの公式見解を示すものではありません。

6ヵ国シンポジウム報告書<概要版>

※この企画は一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト(abt)の2021年度助成金を受けています。

シャロン・スクアソーニ(Sharon Squassoni)

米・ジョージワシントン大学研究教授。国務省軍備管理軍局、米国議会図書館議会調査局(CRS)調査官、カネギー国際平和財団研究員などを経て現職。米国戦略国際問題研究所(CSIS)核拡散防止プログラム主任(2010-18)、『原子力科学者会報』(the Bulletin of Atomic Scientists)、PIRセンター、軍備管理核不拡散センターなどの理事。核エネルギーと核兵器リスク低減に関する研究、政策策定に携わる。