新外交イニシアティブ(ND)が設立10年を迎えるにあたり、これまで歩んできた10年の軌跡を振り返る「ND 10年の軌跡」。混迷を極める世界情勢や、日本の外交の有り方に対して今、どのようなことが求められているか再考したいと思います。
第1回は「海外識者の招聘」。これまでNDが日本に招いてきた代表的な識者の発言を紹介します。
オリバー・ストーン氏(映画監督)
・広島・長崎を初めて訪れ、「黒い雨」や放射能による長い健康被害、その後の社会的差別について学んだ。原爆投下の正当性は、米国が作り出した神話にすぎない。
・歴史から学ばなければ、私たちは獣と同じになってしまう。過去の過ちも含めて歴史を検証することに意義がある。過去に関する証言、歴史の証を紡いでいくことが大切であり、それこそが文明の証である。
・安部政権が侵略の歴史を否定していることは問題である。過去の戦争責任や歴史問題に誠実に向き合うことが必要である。今後は,「新しい外交」の取り組みとして、中国との対話の促進をすべきである。(2013年)
モートン・ハルペリン氏(元米大統領特別補佐官/沖縄返還交渉当事者)
・辺野古に新基地を作る必要性は全くない。海兵隊の意義を抑止力だというのであれば、誰が何をするのを抑止するのか、必要性についてその正当性を問い直すことで、望む形での解決策が見つかるのではないか。
・日本政府は、辺野古の新基地の建設が政治的に困難だということを米政府に説明しようとしないが、しっかりと説明すべきだ。
・この海がいかに美しいか、そして海をこのまま保護したいという地域の想いを米国に伝えたい。ここに移設する以外に方法は無いか、日米両政府は改めて考えないといけない。(2014年)
ヨハン・ガルトゥング氏(「平和学の父」/オスロ国際平和研究所(PRIO)設立者)
・北東アジアの安全保障問題については、軍事的観点からではなく、平和という視点から対処していくべきだ。例えば尖閣諸島の問題は、どちらかの一方的な主権とせず、日中共同管理の形態にすることで、友好的に資源収益を分け合うことができるだろう。
・日本政府が提案している辺野古新基地建設の計画をプランAとすると、基地の存在に頼らない、基地建設とは根本的に異なる「プランB」の提案が必要だ。
・沖縄県は、北東アジアの国際組織の本部を県内に設置するよう働きかけてはどうか。可能性と将来性に満ち溢れる沖縄からトランセンディングな外交を提唱し、北東アジアの平和の傘構築を積極的に提起するべきだ。県民の皆様には、基地問題を乗り越えて大きなヴィジョンを持ち、大きな夢を描いていってほしい。そうすれば大きな結果が得られる。(2015年)
フランク・フォン・ヒッペル氏(プリンストン大学名誉教授/米ホワイトハウス科学技術政策室国家安全保障補佐官)
・六ヶ所再処理工場は、年間8トンのプルトニウム分離ができるということになっている。長崎級の原爆は6キロのプルトニウムで作れることを考えると、1年でその原爆が1000発分作れることになってしまう。核兵器転用の危険性があるにもかかわらず、使用済み核燃料からプルトニウムの分離をしようとするのは非常に悪いアイディアだ。
・安倍首相に向けて、六ヶ所再処理工場の運転を無期限延期してほしいという内容の書簡をパグウォッシュ会議で書いた。
・使用済み核燃料については、ドライキャスクに入れて、空冷式で十分に冷却した後、地層処分する方法がずっとシンプルであり、再処理をするよりも危険性が減る。もしテロ攻撃があったとしても、使用済み燃料プールよりもドライキャスクのほうがずっと危険性は小さい。(2015年)
賈慶国氏(北京大学国際関係学院院長/中国人民政治諮問会議全国委員会常任委員・外務委員)
・中国はアメリカと対立的な関係を持ちたくはなく、協力していきたいと考えている。私自身、米中関係が対立しないことと、北朝鮮の非核化を望むが、現状は複雑である。朝鮮半島について、中国が政策を転換させるかどうかはアメリカの動向にかかっており、台湾問題が試金石になる。というのも、中国の国益からすれば、朝鮮半島の非核化よりも、中国の核心的利益である台湾問題の方が優先順位は高い。米政府が台湾問題の重要性と、いかに繊細なものであるかを理解して慎重に扱うことを期待する。
・中国の対北朝鮮政策は、従来は安定(=戦争をしない)が最優先だったが、北朝鮮が挑戦的に核実験を繰り返すにつれ、北朝鮮の核開発が中国にとって次第に脅威と受け止められるようになり、非核化を最優先と位置付けるようになった。最近では、どの程度北朝鮮に圧力を加え、核兵器を放棄させるか、ということに大きく変わってきた。(2018年)
ダグ・バンドウ氏(ケイトー研究所上級研究員/元米大統領特別補佐官)
・台湾や朝鮮半島でもし有事が起きても、米政府が海兵隊を使うとは思わない。海兵隊はあくまでも支援部隊だ。
・沖縄の過剰な負担があることと、海兵隊が米国の安全保障に不可欠ではないことを考えれば、海兵隊は沖縄から立ち去るべきだ。
・沖縄が要求しても米政府は日本政府に言えと言い、日本政府は政治的に力もない沖縄に置き続ける。日米両政府が共に沖縄を犠牲にして利益を得ている。(2018年)
アミタフ・アチャリア氏(アメリカン大学名誉教授/元国際関係学会会長)
・現在の世界で起きている様々な変化のうち、一番重要な変化はアメリカが相対的に力を落とし、覇権を維持できなくなっていることだが、日本はこれを正確に見ていない。例えばグローバルサプライチェーンは中国がリーダーとなっているように、現在は1つの覇権国が存在する世界ではなく、様々なアクターのいるマルチプレックスな国際関係に代わっているにもかかわらず、特に対中政策など、日本は未だに米国に追随するのみだ。
・日本の外交担当者やワシントンからの評価を聞くと、「日本はインド太平洋地域にコミットしている。この地域でよくやっている」ということになっているが、将来が見えていない。日本は米国主導のグローバルな世界秩序の虜になっており、「自由で開かれたインド太平洋」にしろ、「QUAD」にしろ、「戦略」のカゴの中でしか東アジアを見ていない。例えばASEANは、米中双方が影響力を強めようとしている中、どちらの言いなりにもなっておらず、米中を選ばせるなと発信しており、QUADにも入っていない。
・米国との同盟を壊すべきという意見ではなく、過去に囚われず未来を見るべきという意見だ。軍事増強などの解決策は簡単に取れるが、その負の側面があることをヨーロッパが示している。日本はバイデン政権とともに中国への挑発を強めているが、本来は米国の挑発を抑える役割を果たすべきだ。日本はこの地域で新たな世界秩序を主導できるのだから、この地域の国々にもっと耳を傾けるべきだし、建設的な信頼醸成の措置を取るべきだ。(2017年、2022年)