東アジア地域の緊張が高まった10年
この10年で米中対立が進み、東アジア地域はブロック対立の様相も呈し始めています。戦争は何としても回避されなければなりません。現在の日本政府は、中国脅威論を煽りながら、従来の安全保障政策の大転換を図っています。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や防衛予算の倍増など軍事力のみへの傾斜や、その結果による対立のさらなるエスカレートは、偶発的な衝突のリスクを高めます。NDでは、軍事力ではなく、戦争の危険性や緊張を低減するための現実的な外交政策について政策提言を行い、実際に国際的な協力枠組みを構築するなど、提言を実行に移してきました。
日中外交に関しては、日中間に新たな“トラックⅡ外交”を築き、情報共有や相互理解、人的ネットワークの構築を進めるための活動を行ってきました。2014年および2016年に行った北京訪問では、首脳会談が行われないなど両国関係が冷え込む中、政府・党組織やシンクタンクの方々と面談・交流し、研究者間の友好を深めるとともに米中関係や日本の安全保障戦政策について議論しました。また、中国の専門家や丹羽宇一郎元駐中日本大使を招いたシンポジウムや、中国が専門の学者・ジャーナリストらとの研究会を定期的に開催し、対中外交のあるべき姿や日中関係の改善の方向性を検討してきました。
政策提言「戦争を回避せよ」を発表
2018年には、日中のみならず、米国や韓国、オーストラリアの計5か国から専門家を招き、東アジア地域の軍事・安全保障分野にについて平和的な解決に向けた議論を行う研究会「米中関係の中で考える日中関係~アジア諸国の関係を見据えながら~」およびシンポ「どうなる、東アジアの安全保障~北朝鮮問題や米中覇権争いをめぐって~」を開催しました。対話や外交による緊張緩和を求める各国の専門家のネットワークを築き、国際的な訴えを行いました。
ND評議員や、外交、安全保障の専門家らによる研究会は随時継続して行っており、2021年には、安全保障をその概念から問い直し、外交・防衛政策の包括的な提言をまとめた「抑止一辺倒を越えて―時代の転換点における日本の安全保障戦略」を発表。同年、「台湾有事」の懸念が高まっていることを受け、「台湾問題に関する提言―戦争という愚かな選択をしないために―」も発表し、日本政府・議会に緊張緩和の提言を直接行いました。
2022年には、「安保三文書」改定に先立って政策提言「戦争を回避せよ」を発表。戦争を防ぐためには、相手の「戦争してでも守るべき利益」を脅かさないことによって戦争の動機をなくす「安心供与」が不可欠であることを指摘したうえで、台湾有事を避けるために取るべき外交政策を具体的に提案しました。台湾有事は避けられない運命ではなく、最後まで外交を諦めてはならないことを強調しています。この提言は全国の平和を願う方々から大変高い評価をいただき、代表の猿田は連日の講演依頼をいただいています。また、全ての提言は英訳し、米国他での拡散にも努めています。
米中韓日の4カ国対話を実現
2023年には、米中韓日4カ国から核や安全保障の専門家30名ほどを東京に招き、国際研究会”The East Asia Quadrilateral Dialogue 2023″を3日間にわたって開催しました。現状の地政学的競争の激化への懸念から企画されたもので、韓国と日本からは国会議員も参加しました。この企画は、米国の「憂慮する科学者同盟(UCS)」、韓国の「外交プラザ(KDP)」と共催で行ったもので、東アジアの地政学的な状況について、「戦争という悲劇をどのように避けるか」を主眼に意見を交わしました。米韓日の主催3団体による共同声明も発表し、外国特派員協会(FCCJ)で記者会見を行い、平和と安全を支えるためには、競争を激化させるアプローチではなく、包摂的な協力を促すアプローチが欠かせないことを国際社会に訴えました。この4カ国対話は今後、毎年開催し、東アジア地域の緊張緩和の声を発信し続けます。