研究・報告

【プロジェクト紹介】アジア太平洋プロジェクト

島村海利(ND研究員・弁護士)

新外交イニシアティブ(ND)は、日本の様々な声を外交で実現することを目的として政策提言を行うシンクタンクです。提言は、シンポジウムや様々なメディアを通じて日本国内で表するとともに、訪米活動などを通じて各国政府や国際社会にも広げています。NDの活動は、政府の専権事項と言われ、市民の声が反映されづらい外交に多様な声を反映すべく、専門的な観点から調査・研究を行い、「新しい外交」の実践を試みるものです。

その取組みの一つに、アジア・パシフィック・プロジェクトチーム(AP)の活動があります。APでは、アジア太平洋地域の安全保障政策、とりわけ各国・地域と米国との外交関係や米軍基地に関する取決めを調査・研究し、NDの原点ともいうべき沖縄の辺野古新基地建設問題解決の糸口を探っています。

例えば、在沖海兵隊の一部移転が始まっているグアムでの現地調査では、グアムにおける米軍基地の存在の大きさとともに、先住民族の聖地を守るという戦いを含めた反対運動の重要性を実感しました。グアム政府高官は、軍隊が増えたり減ったりするのには我々はもう慣れているから、その中でコントロールするのだと述べており、アメリカの一部(非編入領土)であるがゆえ、本国に振り回される現実がありました。

フィリピンへは、ドゥテルテ大統領の時代に訪問しました。米国の同盟国でありながら、国内の全ての米軍基地を撤退させており、30年以上国内に米軍基地が一つも存在していないフィリピン。民衆の力で独裁政権を倒したパワー・行動力からは、自分たちのことは自分たちで決める、という気概が感じられます。これはフィリピンの外交姿勢にも表れており、現地では、米国・中国いずれの国との関係も重要であるとの声が当然のように聞かれました。現在のマルコスJr.大統領は、米軍が使用できるフィリピン軍基地の数を増加させ、米国との関係を深めていますが、未だに米軍基地を置くことは認めていません。

韓国への訪問は、尹錫悦大統領(当時)と岸田首相との首脳会談の直後でした。元徴用工訴訟問題に関して賠償金相当額を韓国側が肩代わりする解決策を発表したタイミングであり、これに対する批判も聞かれました。フィリピンと同じく、市民の政治に対する関心が高いことがうかがわれ、政府に、市民の声を聞く役職が設けられているなど、日本の市民とは異なる政治参加のあり方を見ました。

これらアジア太平洋地域との連携、これまで行ってきた訪米活動などのつながりをもとに、NDでは、2023年、米中韓日4か国から核や安全保障の専門家30名ほどを東京に招き、国際研究会”The East Asia Quadrilateral Dialogue 2023″を3日間にわたって開催しました。現状の地政学的競争の激化への懸念から企画されたもので、「戦争という悲劇をどのように避けるか」を主眼に意見を交わしました。同会議の第2回を、2024年は韓国・ソウルで行いました。その最中、尹錫悦大統領の戒厳令が発令され、今の弾劾にまでつながりました。

2024年は、このような韓国の動きのみならず、トランプ大統領の再登場など、国際政治を動かす大きな動きがありました。東アジアの安定のために、米中の戦略的競争をどのように管理し、対話のチャネルを確保するかは極めて重要な課題です。2025年も、NDは、政府間で進められる日米同盟の強化一辺倒ではなく、米中対立の緩和や日中韓関係の改善に向け、多層的で柔軟な対話の機会を作っていきます。

(島村海利)