研究・報告

海自の中東派遣 仲介の外交努力が本筋 柳澤協二

政府が閣議決定した海上自衛隊の中東派遣は、政治的なメッセージの色彩が濃い。船舶の安全のための情報収集(調査・研究)と言っても海自が活動するペルシャ湾外の海域では、地上からのドローンやミサイルによる脅威の情報は得られない。

襲撃が予測される事態には海上警備行動に切り替えることも想定されているが、ペルシャ湾でタンカーを襲う相手がイラン関与する勢力であれば、日本の警察権に基づく海上警備行動で対応できない。日本の警察権で外国や国に準じる相手を強制することは、憲法上も国際法上もできないからだ。

外国の攻撃に対して武器を使って応戦するためには自衛権行使が必要になるが、日本として、伝統的な友好関係にあるイランとの戦争は選択肢にない。言い換えれば、自衛隊を出したとしても、タンカーを守ることはできないということだ。

それでも、原油の大半を中東に存在する日本が何もしないわけにはいかない、という発想が派遣の背景にある。だが「何かをする」ことは「とりあえず自衛隊を出す」ということではない。

いま最も必要なことは、そもそもタンカーの安全を心配せざるを得ないような緊張関係を生み出している原因の除法だ。原因ははっきりしている。米国がイラン核合意から一方的に離脱して制裁を加え、イランが反発して緊張関係が高まったためだ。そこを何とかしなければ問題は解決しない。日本がなすべきは、そのための外交協力だ。

米国とイランへの説得と仲介が必要になるが、それは、両国との良好な関係を持った日本だからできるはずだ。この本筋を忘れてはいけない。

安倍晋三首相には、覚悟をもって仲介に臨んでほしい。国際社会との協調も重要だが、それは、ペルシャ湾に軍艦を派遣した国と自衛隊との関係というレベルではなく、圧力を狙う欧米と仲介を狙う日本という大きな政治的連携でなければならない。

そこの姿勢が不明確なために、自衛隊を出すメッセージも分かりにくい。米国が海自派遣に満足するならイランに敵対的と映るかもしれず、イランが納得するなら米国から見れば、日本の協力は不十分というシグナルとなる。

どこの国であれ、緊張状態で軍を出すことは相手の反応を誘引する安全保障のジレンマに陥りやすい。それゆえ、明確な任務・権限や達成目標もなく自衛隊を出してはいけない。加えて、完全に安全とは言えない以上、目的のない緊張を長期に強いられる派遣部隊の負担も大きい。

政治・外交上の効果に疑問符がつくほか、現場の実態を踏まえた筋道の立った議論が欠落している現状を懸念している。

(沖縄タイムス 2019/12/29 2面掲載)

栁澤 協二氏(元内閣官房副長官補/ND評議員)

1970年東京大学法学部卒とともに防衛庁入庁、運用局長、人事教育局長、官房長、防衛研究所長を歴任。2004年から2009年まで、小泉・安倍・福田・麻生政権のもとで内閣官房副長官補として安全保障政策と危機管理を担当。現在、NPO国際地政学研究所理事長。
著書に『検証 官邸のイラク戦争』(岩波書店)、『亡国の安保政策』(岩波書店)など。