研究・報告

沖縄の針路16 基地問題 米中枢へ訴え 猿田佐世さん シンクタンク代表

【沖縄の針路16 基地問題 米中枢へ訴え 猿田佐世さん シンクタンク代表】(共同通信 2019/1/24)

2009年に米首都ワシントンで米政府や議会、シンクタンクなどに沖縄の声を伝えるロビー活動を始めた。民主党の鳩山政権がこの年、米軍普天間飛行場の移設先を「最低でも県外」と唱えたことが契機だった。

ワシントンの日本人コミュニティーは多くが「辺野古移設が唯一の解決策」との姿勢で、それ以外の声が米中枢に伝わる機会がほとんどなかった。沖縄の知人に「首相が辺野古反対を訴えているのに、なぜ米国に伝わらないのか」と問われ、私は留学中だったが、多様な意見を届けようと手探りで活動を始めた。

最初に会った議員には「沖縄の人口は2千人くらいか」と聞かれた。米国人の知識はそんなもの。12年に留学を終えるまで人脈を築きながら活動を続け、沖縄や野党の政治家らの訪米もコーディネートした。今も年に何度も訪米し、彼らの活動をサポートしている。

面談では、会って共感してもらうだけではだめ。「大統領に書簡を出してほしい」「議会で沖縄の基地問題を取り上げて」と具体的に依頼する。人を動かして初めて意味がある。15年に故翁長雄志前県知事が訪米した際は、訪米団を支え、国防予算の大枠を決める「国防権限法」から「辺野古が唯一(の移設先)」とする条文を削るよう働き掛け、成功した。

日米外交に影響力を持つ知日派はアーミテージ元国務副長官、ナイ元国防次官補ら30人ほど。彼らが関わるシンクタンクには、日本政府の資金や情報が常につぎ込まれている。そして彼らの声が自民党議員やメディアを通じて日本に広まり「米国の声」となっている。

実はアーミテージ氏は「プランBが必要」と辺野古移設にこだわらない立場で、ナイ氏も「沖縄は中国のミサイルから近すぎる」と懸念を示しているが、日本政府に不都合なこうした声は大きく報道されない。

私たちは「沖縄の海兵隊がなくとも、日本防衛の抑止力に問題はない」と軍事的に分析し、普天間も辺野古も不要との政策提言を日米で公表した。日本政府とつながりのある一部の米国人とは別に、「辺野古ノー」を発信する有力者を増やしたい。私は米国をターゲットとする役割を担い、辺野古の現場で座り込みを続ける人々を援護射撃していく。

猿田佐世(新外交イニシアティブ(ND)代表/弁護士(日本・ニューヨーク州))

沖縄の米軍基地問題について米議会等で自らロビーイングを行う他、日本の国会議員や地方公共団体等の訪米行動を実施。2015年6月・2017年2月の沖縄訪米団、2012年・2014年の稲嶺進名護市長、2018年9月には枝野幸男立憲民主党代表率いる訪米団の訪米行動の企画・運営を担当。研究課題は日本外交。基地、原発、日米安保体制、TPP等、日米間の各外交テーマに加え、日米外交の「システム」や「意思決定過程」に特に焦点を当てる。著書に、『自発的対米従属 知られざる「ワシントン拡声器」』(角川新書)、『新しい日米外交を切り拓く 沖縄・安保・原発・TPP、多様な声をワシントンへ』(集英社)、『辺野古問題をどう解決するか-新基地をつくらせないための提言』(共著、岩波書店)、『虚像の抑止力』(共著、新外交イニシアティブ編・旬報社)など。