【「自発的対米従属」 危うい「友情」頼みの外交】(北海道新聞 6/7)
接待づくしの日程を終え、トランプ大統領が帰国した。「相撲もゴルフも、ただ遊んでいるわけではない」とのある識者のコメントに思わず吹き出した。懸念される貿易交渉の発表についても選挙後の8月に延期してもらい、首相としてはプロデュース大成功の外交劇だっただろうが、わざわざ意義の説明をせねばならない4日間もの首脳外交とは何だろう。
首脳の信頼関係が深まり、日米関係が強固であると周辺国に示した、というのが今回の意義とされている。「友情」を深めて何を実現しようというのだろうか。あくまで、米国の大統領は米国の国益に基づいて政策を決定する。「米国第一」のトランプ氏はその傾向が特に強い。鉄鋼・アルミニウム関税でも分かるように「友情」により貿易交渉で手を抜くことは考えにくいし、有事の米軍出動の有無も、米国の国益に資するか否かによる判断である。
安倍政権・トランプ大統領になってから、日本は米国からかつてない大量の武器を購入し、ノーベル平和賞にトランプ氏を推薦するなど、従属姿勢がさらに深まっている。氏の他国訪問では、常に起きる反対デモでも、日本では一切起きなかった。
従属というのは本来「望まぬ状態」を指す単語だが、この場合は、自ら日本が積極的に選択した「自発的対米従属」であることを理解すべきだろう。
例えば、沖縄の辺野古新基地建設問題であるが、米国は政府関係者ですら「他の案が日本から出れば前向きに検討する」と発言する。しかし日本政府は「辺野古が普天間基地移設の唯一の選択肢」とかたくなである。
刑事犯罪や環境問題の点で批判の強い日米地位協定。ついには全国知事会も全会一致で改定要求を出したが、いまだ日本政府は改定を正式に米国に求めたことすらないと聞く。求めないのだから変わらないのは当たり前である。
また、安保分野で有名な、米国の民間研究者の手による「アーミテージ・ナイ報告書」は、集団的自衛権の行使や秘密保護法制定などを求め、日本の政策形成に強大な影響力をもってきた。しかし、この報告書を出版する民間シンクタンクに日本政府は潤沢な資金を提供している。日本で何か政策を実現したい場合には、米国政府や米識者から発言をしてもらうことが効果的であるからである。
私はこれを「ワシントン拡声器」と呼ぶ。米国から日本に届く情報の多くには「日本人による作為」が加わっているのである。まさに「米国の声への従属」を装った「日本による選択」である。
原発についても同様である。米国では原子力産業が低迷している、米国政府は青森県六カ所村の再処理工場稼働に懸念を示している、といった日本政府にとってマイナスの情報は、日本になかなか届かない。
TPP(環太平洋連携協定)について議論が出てきた当初、日本では自民党議員にすら反対が強かった。しかし、日本政府は「アメリカが推すのだから乗らないわけにいかない」と加盟を決定。しかし当の米国は、2016年の大統領選挙で主要候補者の多くがTPPに慎重な立場を示し、当選したトランプ氏は就任直後にTPPから離脱した。
日本に吹き荒れた「アメリカがいうのだから」という風はどこからきたのか。日本で語られる「アメリカ」は誰なのか。アメリカといえばTPPに賛成する声ばかりを取り上げてきた結果であろう。さらには、13年、米国議会内にTPP議員連盟ができたが、これは、日本政府がロビイストを雇って作ったものであることをご存知の方はどれだけいるだろうか。
米国が離脱した今では、日本の企業などが米国のTPP推進論者を日本に招き「米国の復帰まで日本がTPPをリードし、日本から米国に復帰を働きかけてほしい」との米国製のコメントを広める役割を担っている。
「アメリカの風」にのってTPPに入った結果、現在の日米貿易交渉では、TPP以上の農産物の関税引き下げを求められる可能性が強まっている。
何よりも、多くの場面において日本と米国とでは「国益」が異なることを私たちは忘れてはならない。異を唱えないのだからトランプ氏がご機嫌なのは当然であるが、「友情」を唯一の外交方針とすることで、多くの問題が置き去りにされていく。そして、いつでも梯子を外されるうるのである。自らの外交方針を主体的に考えられる私たちでなくてはならない。現在の「従属」が、押しつけではなく、日本自身の選択であるということを認識することから始める必要があるだろう。