研究・報告

指標~辺野古に土砂投入~ 実体ない「抑止力」論 本土の責任を果たせ

【指標~辺野古に土砂投入~ 実体ない「抑止力」論 本土の責任を果たせ】猿田佐世(共同通信 12/15)

猿田佐世(新外交イニシアティブ代表・弁護士)

沖縄県民は名護市辺野古沿岸部への基地建設反対の強い意思を、知事選史上最多得票となった玉城デニー氏の当選により明確に示した。埋め立て開始はこれをいとも簡単に踏みにじる暴挙だ。

沖縄は、全国の7割以上の米軍基地を引き受けている。日本政府が「柱」とする日米安保を「支えて」いるのは沖縄だ。日米安保を重視するのであれば、沖縄の声に耳を傾けなければならない。玉城氏は、対話を求めて何度も上京し、政府に反対を伝えてきた。それにもかかわらず、政府は実質的に聞く耳を持たなかった。

これだけの反対があるのだから、政府は基地建設がやむにやまれぬ理由を示さねばならないはずだ。この点、政府は、安保環境に対応すべく「抑止力」のために沖縄に米海兵隊が必要と呪文のように繰り返す。しかし、その「抑止力」の具体的な中身を説明することはない。

実際に海兵隊の運用を分析すると「抑止力」論は誤りであることが分かった。新外交イニシアティブでは、日本政府の「辺野古が(普天間移設の)唯一の選択肢」との説明について3年かけて検証を重ねた。そして、新基地を建設せずに普天間基地の撤去は可能との提言書を作成した。

北朝鮮との紛争でも尖閣諸島を巡る中国との争いでも、最初に投入されるのは空軍・海軍であって海兵隊ではない。しかも日米間で合意済みの米軍再編の実施後、沖縄に残る海兵隊の実戦部隊はわずか2千人となる。これでは大規模紛争には対応できない。さらに、その残る実戦部隊は今、年間半年以上東南アジアなどを訓練で回り、沖縄にはいない。新基地を辺野古に造る理由などないのだ。

提言書の作成前、日米両国の政府関係者や専門家と意見交換し「海兵隊の運用を細かく分析すれば必要だとわかる」と言われた。そして、細かく分析した提言書を持参すると今度は「もっと大きく全体を見なければ」と言い返された。結局、沖縄の声を聞く姿勢があれば、他の選択肢などいくらでもあることを痛感した。

政府は仲井真弘多元知事の辺野古埋め立て承認に伴い5年以内の普天間運用停止を約束した。間もなくその5年が経過する。約束実現への努力もないまま、埋め立て承認を有効とするのはルール違反ではないか。

なぜ、沖縄だけが実体のない「抑止力」論などによって過剰な米軍基地の重荷を背負い続けなければならないのか。住民の圧倒的多数が反対する政策を政府が強行することが許されるのか。忘れてはならないのは、辺野古基地反対は沖縄だけではない点だ。本土での多くの世論調査でも、辺野古基地反対が賛成を上回っている。沖縄の人々の本土に対する最大の希望は新基地建設に反対する政治を本土で実現してほしいということである。

埋め立てが始まったとはいえ、埋め立てられたのは予定地の数%にすぎない。基地建設に反対する本土の私たちは日常から、そして、今後の選挙で反対の意思を示していかねばならない。これが、沖縄に基地負担を押し付けてきた私たちが果たすべき責任だ。

猿田佐世(新外交イニシアティブ(ND)代表/弁護士(日本・ニューヨーク州))

沖縄の米軍基地問題について米議会等で自らロビーイングを行う他、日本の国会議員や地方公共団体等の訪米行動を実施。2015年6月・2017年2月の沖縄訪米団、2012年・2014年の稲嶺進名護市長、2018年9月には枝野幸男立憲民主党代表率いる訪米団の訪米行動の企画・運営を担当。研究課題は日本外交。基地、原発、日米安保体制、TPP等、日米間の各外交テーマに加え、日米外交の「システム」や「意思決定過程」に特に焦点を当てる。著書に、『自発的対米従属 知られざる「ワシントン拡声器」』(角川新書)、『新しい日米外交を切り拓く 沖縄・安保・原発・TPP、多様な声をワシントンへ』(集英社)、『辺野古問題をどう解決するか-新基地をつくらせないための提言』(共著、岩波書店)、『虚像の抑止力』(共著、新外交イニシアティブ編・旬報社)など。