米大統領選の予備選が序盤を終えた。民主党の候補者選びでは、バーニー・サンダース上院議員と中道派のバイデン前副大統領選とのトップ争いになっている。サンダース氏は「急進左派」「革新派」と言われ、自らも「民主社会主義者」と規定する。「過激」と評されながらも、実際は、氏が目指す政策の多くは国民皆保険や大学の無償化など欧州では一般的に実践されているものも多く、米国でも、氏が前回の選挙で唱えた政策のいくつもが今では民主党の主流となった。
サンダース陣営は10~20代の若者に熱狂的に支えられており、その支持は他の候補者の流動的な支持者とは桁違いに確信に満ちている。陣営の戸別訪問を覗いてみると、ほぼ全員20代以下の若者達が声を掛け合って何十人も集まり、意気揚々と各戸のドアをノックしていた。「若者がこれだけ元気なら、この国はまだまだ大丈夫だ」と言いたくなるほどの熱気である。
革新派からは候補者もう1人も支持を集めており、数字上は、民主党に投票する人の半数近く、すなわち米国民の4分の1近くが革新候補を支持している。もちろん、今後「中道」がさらに団結し、最終候補者は中道派となる可能性も高い。また、世論調査ではトランプ氏との比較でもサンダース氏支持の方が多いが、最終的にはトランプ氏勝利の可能性も相当程度ある。としても、この革新派の政策に広がる共感と若者の厚い支持は今後の米国社会の変化への一つの原動力となるだろう。
さて問題は、この変化を目の当たりにしながら私たち日本は十分に発信できているのか、という点である。
米国の対日政策は何十年もの間、ほぼ変わらずにきた。「駐留経費を全額支払わねば米軍撤退」と訴えるトランプ氏が当選しても、既得権益層が周りを固め、良くも悪くも既存の外交が続けられてきた。
これまでこの米革新派は日米外交において存在をもたなかった。日本政府は米国の決まった一部の層と外交を行い、米革新派は相手にしてこなかった。米革新側も社会保障など内政をウリにし、外交、特にアジア外交についての発信は限られてきた。しかし、現在、米下院議員430人(うち民主党232人)の中でプログレッシブ(革新)議員連盟は約100人を有する民主党最大会派で、大統領の最有力候補を生み出している。沖縄基地、米軍駐留経費4倍増要求、武器大量購入、地位協定・・・日米間には問題が山積しているにもかかわらず、日本からは既存のワンボイスしか聞こえず、彼らに「これを相手に対日政策を行うほかない」と捉えられては問題の改善の機会は閉ざされる。
近年2度、サンダース氏と直接議論する機会があった。氏はリベラル陣営の国境を越えた連携を強く希求し、それにより国際社会を変えるという強い意志を持っている。アジアにおける米軍の存在についても、これまでの同盟関係や米国の安保体制維持における重要性を認めつつも、長期的にはあり方を振り返り、必要ならば削減も考えたい、とする。
前回の大統領選では、基地撤退まで口にするトランプ氏の当選に、震え上がった安倍首相はニューヨークのトランプタワーに飛んで行き、既存の日米外交の重要性を強調した。今回もサンダース陣営の勢いが続けば、日本政府などによるサンダース陣営の囲い込みが始まるだろう。
前述したような日米間の諸問題の解決を求める人々や今の日米外交と異なる方向を指向する日本の野党や市民社会は、日本はワンボイスではないこと、もっと言えば、世論調査では安保法制も辺野古基地建設もNOの声が多数派であることをこの米国の4分の1にも届けなければならない。
米国の内側で軍事力に今ほどは頼らない安全保障の模索が始まるか、という時に、まさか日本が足をひっぱることのないよう心から願う。
(北海道新聞 2020/3/5 6面掲載)