2014年1月10日、新外交イニシアティブ(ND)シンポジウム「普天間基地返還と辺野古移設を改めて考える」を名護市で開催しました。柳澤協二ND理事の基調講演を冒頭に、マイク・モチヅキND理事のビデオメッセージの上映、稲嶺進氏(名護市長)、仲里利信氏(元沖縄県議会議長・元自民党沖縄県本部顧問)、前泊博盛氏(沖縄国際大学教授・前琉球新報論説委員長)をお招きしたパネルディスカッションを行いました。司会・コーディネーターをND事務局長の猿田佐世(弁護士)が務めました。
昨年12月末の仲井眞弘多沖縄県知事による辺野古埋め立て申請の承認を受け、2週間という大変短い準備期間での緊急開催であったにもかかわらず、大変多くの方々にご参加いただき、約1200人がお集まりくださり、立ち見も出る盛況となりました。ご協力・ご参加いただいた皆さまに心から感謝を申し上げます。
基調講演:柳澤協二ND理事(元内閣官房副長官補・元防衛省防衛研究所所長・元防衛庁官房長)
日本政府の安全保障政策を担当していた防衛省出身の柳澤協二ND理事は、基調講演において、「普天間の危険性の除去が問題の本質だったが、移設問題にすり替えられた。」と指摘したうえで、要旨、下記のように述べました。
昨年末定められた日本政府の新防衛大綱では、西大西洋における日米のプレゼンスの強化が戦略的な重点となっている。現在米軍では、海兵隊をはじめとする地上軍は重視されなくなっている。
2010年以降アメリカの戦略は、アジアは重視するが兵力は集中しないというもの。沖縄への米軍基地の集中はアメリカにとっても合理的でないという状況が現れている。この十数年の間にアメリカの軍事戦略は変化しているが、日本政府の主張は一貫して米軍基地は抑止力として大事だ、というところから変わっていない。
抑止力とは何か。「脅威があるから抑止力が必要」という従来の考え方が、冷戦後の今成り立つとは思えない。抑止というのは正面衝突を避けるためにお互いブレーキを踏むという論理である。この時代、(国家と国家などの間で)摩擦はあるが、相手を滅ぼさなければ自分の存在が脅かされる、というような脅威はもうほとんどない。少なくとも米中の間にその関係はない。アメリカが海兵隊を中国との間に投入するということはありえないだろう。
沖縄の米海兵隊は、中国の短距離ミサイルの射程内に入っており、中国に近すぎて中国に対する抑止力とはなり得ない。報道によれば、アメリカの当局者は沖縄の海兵隊は中国のミサイル3発で全滅するという認識を持っているとのことであった。米軍はむしろ、グアムやダーウィンなどその射程外に出ようとしている。
そして、柳沢ND理事は、「県外移設の軍事的条件は既にある。県民の利益のためにそれを実現するのが政治の役割である。」と語りました。さらに、沖縄は今、基地と一緒に暮らす生活がしたいのかどうかという選択を迫られている、と述べたうえで、「普天間ならダメだけど辺野古ならいいのか。より抵抗が少ないところ、より人が少ないところにやっかいな問題を集中させるサイクルを止めない限り、沖縄は基地の中で暮らしていかなければならない矛盾から抜け出せない。」とまとめました。
ビデオメッセージ:マイク・モチヅキND理事(ジョージ・ワシントン大学准教授)
マイク・モチヅキND理事は、ワシントンDCからビデオメッセージを寄せ、「辺野古埋め立ては反対意見があるうえ、埋め立ての技術上の問題も多く、困難だ。」「米軍にとってこれから、アジア太平洋地域における安全保障の責任遂行という観点から、埋め立てによるV字型の航空基地はますます必要ないと見なされるようになる。」「長期的には、海兵隊員のほとんどはグアム、ハワイ、米国本土といった場所に配備されていくことになる。そこから沖縄やアジア太平洋地域の他の戦略的地点に行けばいいため、沖縄に本格的な恒久基地を置く必要はない」と指摘しました。
パネルディスカッション:稲嶺進氏(名護市長)・仲里利信氏(元沖縄県議会議長・元自民党沖縄県本部顧問)・前泊博盛氏(沖縄国際大学教授・前琉球新報論説委員長)・柳澤協二ND理事
続くパネルディスカッションにおいて、前泊氏は、キャンプシュワブを辺野古に残している限りこの問題は続く、とした上で、沖縄振興予算について、地方財源の少ないところへ再分配する当たり前の交付金というシステムの中で、全国と同じようにもらえるお金である、と説明し「沖縄だけは言うことを聞かないともらえない。なぜ沖縄だけが恫喝されなければならないのか。」と述べました。続けて「仲井眞知事が基地を引換に3400億の予算を手に入れたということが言われているが、97年は4700億円の数字があったことを忘れないでほしい。」とし、「このとき沖縄が一番基地移設に反対したからこの数字がついた。その後右肩下がりで落ちていたが、仲井眞知事が県内は無理だと主張したときから金額があがっている。これではいけない。権力の横暴である。」と述べ、知事が作った基地の跡地利用についての調査報告書では基地返還の経済的効果は1兆円であったことを指摘しました。
辺野古移設に反対して自民党沖縄県連顧問を辞任した仲里氏は、「辺野古に基地が作られてしまうと、沖縄が今後も要塞とされてしまう。」との危惧感を表明しました。さらに地位協定の問題について、「これまで何度も抜本的な改定を訴えてきたにもかかわらず、何も変わっていない。」と語った上で、「日本は主権国家として、日本の憲法を適用するという姿勢でなければならない。」と指摘しました。
稲嶺進名護市長は、「知事が承認したのでそのまま辺野古埋め立てまで進んでしまうのか、と聞かれるが、答えはノーである。」と強調したうえで、「名護市長の許可を得なければ前に進めないことも多くある。」と述べ、辺野古埋め立て工事に必要な市長の権限について説明をしました。また、映画監督のマイケル・ムーア氏やオリバー・ストーン氏ら海外有識者が辺野古移設反対の声明を発表していることに触れ、「私たちの主張は世界から見ても常識である。自信を持って頑張りたい。」と述べました。さらに、「移設を強行しようものならオール沖縄でもっと大きな動きが出てくると思う。そういう時にはその先頭に立っている。」と述べました。最後に、「オスプレイの飛ぶところに観光客は来ない。キャンプシュワブを撤去し、多様性の海を返してもらい、2万人の雇用を生むところにしたい。」と語りました。
注:発言取りまとめの責任はND事務局にあります。登壇者の方のご発言を直接お知りになりたい方は、NDウェブサイト掲載のビデオをご覧ください(近日掲載予定)。