トピックス

日米中韓豪5か国研究会

米中関係の中で考える日中関係 ~アジア諸国の関係を見据えながら~

概要報告

PDF版はこちら

趣 旨

米中関係が東アジアの安全保障環境を形成する最大のファクターとなりつつある中、北朝鮮の核開発をめぐりこの地域の情勢が大きく変容しようとしている。

4月27日には南北朝鮮の首脳会談が、5月には米朝首脳会談が予定される中、3月26日に中朝首脳会談が急遽実施されるなど、事態がめまぐるしく動いている。

新外交イニシアティブでは、東アジア地域の安定に向け、北朝鮮問題や米中の覇権争いの今後の方向性を探り、日本の果たすべき役割や、日本の取るべき東アジア諸国との連携などについての議論を行うべく、東アジア安全保障研究会「米中関係の中で考える日中関係~アジア諸国の関係を見据えながら~」を3月30日から31日の一日半にわたって開催した。

この研究会へは、日本や中国のみならず韓国やアメリカ、オーストラリアからも研究者を招き、軍事・安全保障・外交の視点から広範かつ具体的な議論を行った。

この成果について、3月31日に「どうなる、東アジアの安全保障~北朝鮮問題や米中覇権争いをめぐって~」と題する公開シンポジウムを開催した。

 

スケジュール・討議テーマ

※進行方法:①テーマごとに報告者によるキーノートスピーチ、②質疑・議論、③総括

<1日目>

10:00-12:30 セッション1:

北朝鮮核開発をめぐる米中及び東アジア各国の対応

13:30-16:00 セッション2:

東アジアの海洋の安全保障

16:20-18:50 セッション3

日本における対中外交・東アジア外交の展望

  <2日目>

10:00-12:30 全体総括

13:30-14:30 シンポジウムの打ち合わせ

14:30-17:00 シンポジウム

「どうなる、東アジアの安全保障―北朝鮮問題や米中覇権争いをめぐって―」

 

参加者

※敬称略、順不同。各氏のプロフィールはこちら

 

・中国:

賈慶国(北京大学国際関係学院院長)

呉寄南(上海国際問題研究院学術委員会副主任)

呉従勇(中国国際友人研究会副会長)

朱建栄(東洋学園大学教授)

・アメリカ:

グレゴリー・カラキ

(憂慮する科学者同盟(UCS))

・オーストラリア:

リチャード・マックグレーガー

(ローウィ研究所/元ウィルソン・センター研究員)

・韓国:

李起豪(韓国・韓信大学 平和と公共性センター長)

・日本:

柳澤協二(ND評議員/元内閣官房副長官補)

津上俊哉(元在中国日本大使館 経済部参事官)

東郷和彦(京都産業大学教授)

岡田充(共同通信客員論説委員)

太田昌克(共同通信社編集委員・論説委員)

猿田佐世(ND事務局長/弁護士)

 

概要報告

研究会およびシンポジウムでは、主に下記の点が確認・提起された。なお、北朝鮮核開発をめぐる情勢を鑑み、習近平政権の対北朝鮮政策の転換を後押しした賈慶国氏、および文在寅政権による平昌五輪を契機にした南北協調路線に影響を与えた李起豪氏について、発言の要旨も付記する。

 

  • 北朝鮮核開発をめぐる米中及び東アジア各国の対応

・核戦争に向かわせてはならず、各国との首脳会談をはじめとする対話のプロセスが成功するような取り組みを続ける必要がある。しかしながら、米国の対中関税や台湾旅行法を初めとする政策を契機に米中関係が急速に悪化しており、今後の米国の対応次第では中国も路線変更をする等様々な障害が出てくるため、米国には慎重さが求められる。

・4月27日に南北首脳会談、5月中に米朝首脳会談が行われる予定だが、北朝鮮は、東アジア地域の非核化を視野に入れた議論を展開することが考えられる。北朝鮮だけの非核化を目指していて、東アジア地域に平和と安定が訪れるのかということを問い直す必要がある。

・日本ではこの会談に対し、北朝鮮にまた騙されるという捉え方をする向きが多いが、北朝鮮の立場に立てば、北朝鮮もアメリカに騙されてきたという思いがある。現実を捉え、一方的に相手が悪いということにせず、相互に思いを巡らせることが必要である。

・核保有国やアメリカの核の傘に入っている日本や韓国などの国は、事実上核兵器を安全保障の最後の拠り所と捉えているが、核への依存を無くしていくという発想に切り替えることが重要である。

・北朝鮮に対しては、日本は圧力一辺倒の米国に追随し続け、現在この問題において蚊帳の外になりかけている。しかし本来は唯一の被爆国として日本こそがイニシアティブをとって平和的な解決に向けて動かす責任があった。当事国であるという意識を持って臨むべきである。

  • 東アジアの海洋の安全保障

・南シナ海などの領有権問題について、中国は自国の権利として当然取り組むべきとの認識を以前から持っていたが、力が無くてできなかった。経済力・軍事力を高め、ようやく大国としての主張をできるようになってきたという背景がある。しかし、周辺国に意図しない警戒心を与えてしまっていることを自覚すべきである。

・中国は経済的に著しく成長しており、大国としての側面が強まっているものの、未だに貧しい開発途上国の側面も持っている。大国として振舞おうとすれば役割やコストも認識しなければならないが、中国はその学習途上にあるといえる。日本は、アジア初の先進国としての経験を中国と分かち合い、協調関係を築いていくことが必要である。

・海洋は一国で管理するにはあまりにも大きく、環境問題や資源管理も含め、様々な国が協力しながら問題解決に向けて取り組む必要がある。通商路としての海の平和が保たれなければ、中国にとってもマイナスになる。海を対立の場ではなく、共有する問題について協力関係を築ける場とすることが重要である。

 

  • 日本における対中外交・東アジア外交の展望

・今年で日中平和友好条約締結から40周年になる。日本はこの40年、中国に対して優位だという認識を持っており、日中関係は日本にとって居心地のいい関係であった。しかし、中国が台頭するにつれ力関係が変わり、今や中国の方がはるかに大きな経済力、軍事力、国際的な影響力を持っている。日本としては居心地がいい状態で関係を継続することができなくなってきており、十分に前向きな協調関係や、その気運を築けずにいるが、日本がこの地域で果たすべき役割を考え、果たすことが求められる。

・現在の日中関係は多少改善の傾向がみられる。去年の5月から、安倍政権は一帯一路政策に協調姿勢を打ち出し始めている。

・日中間には歴史認識の問題もある。この問題は世界のどこでも、被害国が許さないと終わらない問題である。しかし、加害国の政府が要求に応じて謝罪という文書を出す出さないというような問題ではなく、その国の市民の中に反省の意識が広がり、自発的に謝罪することが必要である。

・中国包囲網のようなことはやめて、日中関係を改善させることを優先すべき。朝鮮半島問題で当事者意識をもち、アメリカの核の傘という拡大抑止論の当否を含め真剣に市民が考えることが重要である。

 

  • 賈慶国氏(北京大学国際関係学院院長)

中国の対北朝鮮政策は、従来は安定(=戦争をしない)が最優先だったが、中国で主要な国際的なイベントを控える度ごとに北朝鮮が挑戦的に核実験を繰り返すにつれ、北朝鮮の核開発が中国にとって次第に脅威と受け止められるようになり、非核化を最優先と位置付けるようになった。

以前は北朝鮮をどの程度支援するかどうか検討していたものが、支援するかどうか、に変わり、最近はどの程度北朝鮮に圧力を加え、核兵器を放棄させるか、ということに大きく変わってきた。その結果が昨夏から今年に渡って発表された国連安保理決議2371号、2375号、2397号であり、これらによって中朝貿易の大部分が無くなった上、石油輸出も大幅に削減される等、とても厳しい制裁であった。

この制裁の影響で、北朝鮮が対話の姿勢に転じたと考えられるが、中朝首脳会談を行った北朝鮮の思惑は2つの方向性が考えられる。

1つは、核兵器を放棄した上で、体制の保証や、アメリカとの国交正常化、経済的な支援、市場へのアクセス等を、アメリカに求めるということだ。北朝鮮は切り札が少ないため、アメリカとの交渉で自国の利益を引き出すためには切り札を増やすしかない。中朝首脳会談により中国の支援を得られれば、アメリカとの交渉においてより良い成果を引き出すことができるようになる。

2つ目は、核開発を継続し、そのための新たな機会をつかみたい、という考え方だ。トランプ政権が中国に対し、貿易措置に加え、中国にとって挑発的な台湾の問題に手をつけてきたことで、米中関係が急速に悪化している。これは北朝鮮にとってはチャンスであるため、中国を説得して制裁のレベルを引き下げることができれば、核開発のための時間を稼ぐことができるかもしれない。

トランプ大統領による高官の交代からも対中政策が厳しくなることが予想されるが、台湾問題に対するアメリカの挑戦が続けば、米中が対立関係に入る可能性もある。もしそうなれば、北朝鮮の問題について、中国の協力が得られなくなるかもしれない。

というのも、中国の国益からすれば、朝鮮半島の非核化よりも、中国の核心的利益である台湾問題の方が優先順位は高い。中国が北朝鮮と友好的な安定した関係を築こうと思えば、非核化は二次的な問題になる。北朝鮮が核兵器を持っていたとしても、友好的な関係を築いていればましと考えるであろう。

中国はアメリカと対立的な関係を持ちたくはなく、協力していきたいと考えている。また私自身、北朝鮮の非核化と、米中関係が対立しないことを望むが、現状は複雑である。中国が政策を転換させるかどうかはアメリカの動向にかかっており、台湾問題が試金石になる。トランプ政権が台湾問題の重要性と、いかに繊細なものであるかを理解して慎重に扱うことを期待する。

 

  • 李起豪氏(韓国・韓信大学 平和と公共性センター長)

北朝鮮核開発をめぐっては、「第二次冷戦時代」と捉えている。先の冷戦の終結後には、新たなヨーロッパ秩序が生まれた。今回の問題が解決する際には、新しいアジア秩序を構築することが重要だ。冷戦を終えるためには、敵対国が友好国になることが欠かせない。北朝鮮と、アメリカや韓国、日本が友好な関係を築くには、ナショナリズムや軍国主義を強めるのでなく、アジアの新秩序をどのように構築するかを考える必要がある。

4月27日に予定されている南北首脳会談は、2000年、2007年続き3回目の首脳会談となる。一回目は金大中と金正日が南北交流等について原則的なことを協議したが、南北関係改善に大きな進展は得られなかった。その背景には、韓国が1997年からIMF危機に陥っていたことがあり、金大中は「半分しか集中できなかった」と述懐していた。

2007年に廬武鉉と金正日が会談し、具体的な共同宣言を打ち出しただけでなく、協力事業のリストアップも行われた。しかし任期が残っていなかったことや、韓国全土から支持を取り付けていたわけではなかったこと等により実現できなかった。

今回の文在寅には、展開が早いという特徴がある。これまでの経験をベースに、韓国世論の支持も取り付け、首脳レベルで動いている。就任から1年も経っていないにもかかわらず、平昌五輪などの機を逃さずに進めている。一方で、北朝鮮が要求しているものは2000年から一貫しており、新しく要求したものはあまりなく、金正恩も、まとないチャンス、もう二度とないチャンスと考えていると思う。南北首脳会談はうまくいくと考えている。

安全保障のことを考えるときには、当然プランBを考える必要はあるものの、前向きに望まないことには意味がない。北朝鮮の非核化には、おそらく長い時間を要するので、厳しく分析し対抗するのではなく、夢に向けた非核化を楽しく協力して取り組んでいきたいと考えている。

例えば、2030年に北朝鮮の平壌での五輪開催を目指すというものだ。歴史的には、1964年に東京、1988年にソウル、2008年に北京と、約20年おきに東アジアで五輪が開催されている。日本は敗戦後9年で実現し、韓国は戒厳令も敷かれた悲惨な光州事件から8年後の開催であった。これらは奇跡といわれたが、今後の12年で、アジア地域が協力して奇跡を作っていけるのではないか。

以前は20年スパンだったアジアでの五輪開催は、2018年に平昌、2020年に東京、2022年に北京と、2年おきになっている。南北協調の契機となった平昌を入り口に、2030年に平壌五輪を開催することに向けた協力関係の中で非核化を進めるという、楽しい平和プロセスを作っていきたい。

 

※この研究会・シンポジウムは、公益財団法人「庭野平和財団」から助成を受け実施しました。