自公に代わる 新たな安保政策は 台湾有事での 米要求は拒否せよ

半田滋氏論考

とめどなく拡大する自衛隊の政治利用

「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」。菅義偉首相とジョー・バイデン米大統領は4月16日、米ワシントンで発出した共同声明で、「台湾」問題に触れた。米国の軍高官からは、台湾有事の可能性に関する発言が続く。日本はどうすべきなのか。1990年代から一気に広がった自衛隊の海外活動と対米支援を概観しつつ、採るべき選択肢を考える。

日本防衛の役割に限定されていた自衛隊にとって未経験だった海外活動は、1991年のペルシャ湾掃海艇派遣から始まった。翌年には国連平和維持活動(PKO)協力法が制定され、海外活動は常態化した。

日米関係は、日米安保共同宣言(96年)を皮切りに、周辺事態で自衛隊が米軍の後方支援することを米国に約束した日米ガイドラインの改定(97年)、対米支援を法律で裏付ける周辺事態法の制定( 99年)と段階を経て連携が強化された。

9・11テロで強まった自衛隊の政治利用

90年代に「自衛隊の海外派遣」と「自衛隊の対米支援」が並立したところで、米同時多発テロが発生し、この二つは融合する。対米支援のための自衛隊インド洋派遣であり、米国が始めたイラク戦争を支持する証としての自衛隊イラク派遣である。

米国が同時多発テロの報復として踏み切ったアフガニスタンに対する武力攻撃を受けて、日本はテロ対策特別措置法を制定し、海上自衛隊の護衛艦と補給艦をインド洋へ派遣した。活動は、攻撃に向かう米艦艇に燃料を供給すること。派遣は9年間に及んだ。

この活動が米国など参加国から感謝されたことを受け、政治家や官僚の間で「国際貢献の実を上げるには自衛隊を使えばよい」との意識が一層広がった。

その証拠にイラク戦争に際し、電光石火でイラク特別措置法が制定され、陸上自衛隊がイラクへ、また航空自衛隊がクウェートへ派遣された。

陸上自衛隊の活動は施設復旧、給水、医療指導の3項目。「非戦闘地域」に派遣されたにもかかわらず、13回22発のロケット弾が宿営地へ向けて発射され、2発が宿営地内に落下。1発はコンテナを突き破ったが、幸い不発弾で死傷者は出なかった。

一方、航空自衛隊の輸送機は、陸上自衛隊の人員や物資を空輸。2006年7月に陸上自衛隊が撤収すると武装した米兵をイラクの首都バグダッドまで週3回ほど空輸するようになった。

5年間に運んだ人員は、国連職員が2799人、陸上自衛隊が1万895人、そして米軍が2万37273人。 陸上自衛隊が撤収して以降は、米軍のための空輸だったということができる。

輸送機がバクダッド上空まで来ると、携帯ミサイルに狙われたことを示す警報が機内に鳴り響き、機体を左右に大きく切り返し、命がけの着陸を余儀なくされた。

この空輸活動は08年4月、名古屋高裁から「米軍の武力行使と一体化し、憲法違反」との判決を受け、確定。政府は派遣を続けたが、同年12月に撤収した。

米軍防護は特定秘密 国民に知らされず

政府は、テロとイラクという2つの特措法による自衛隊派遣を「成功」と位置づけた。さらに対米支援を強めたのが15年、安倍晋三政権下で成立した安全保障関連法だ。米軍への後方支援がほぼ全面解禁され、集団的自衛権行使が一部解禁された。

同法の施行から今日までの5年間、集団的自衛権行使につながる自衛隊による米艦艇や米航空機の防護は57回を数えるが、政府はただの1回も中身を公表していない。前年分をまとめて国家安全保障会議に報告することにより、特定秘密となって中身を公表できない仕
掛けとなっているからだ。

米軍はじめ他国軍との連携は限りなく拡大され、海上自衛隊は遠くインド洋や南シナ海まで出向き、武力行使を前提にした訓練を繰り返している。狙いは中国に圧力をかけ続けることだ。

今年になって、米中が衝突する台湾有事に関する情報が発信された。

インド太平洋軍のデービッドソン司令官は3月9日、上院軍事委員会で「台湾への脅威は6年以内に明白になるだろう」と有事の発生に言及。後任のアキリーノ海軍大将は同月23 日、同委員会で米国は台湾有事に介入すべきだとの認識を示した。

2人の司令官の見解は「台湾有事は迫る」で一致している。中国は1996年にあった台湾
危機つまり総統選への介入失敗をきっかけに米国に対抗する「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」を掲げて軍事力の増強を図り、2027年には軍の現代化を達成する。

一方の米国は中東におけるテロとの戦いに明け暮れ、宇宙・サイバー・電磁波といった現代戦で中国に後れをとった。中国の軍事力が米国に勝る「6年以内」に台湾有事が起きる、というわけだ。

在沖縄米軍基地へ ミサイル配備の恐れ

米軍は中国への対抗策を急ぎ、第1列島線にミサイル網を敷く構想を進めている。有力視されるのは沖縄にある米軍基地への中距離ミサイルの配備。日本本土の米軍や自衛隊基地への米軍機増強にも踏み切ることになる。

米国は「中国を抑止するには不可欠だ」と主張するだろう。「抑止力の強化=安全安心」を信奉する日本の政治家は、抑止が効かないこともあり得るとは考えず、米軍の戦力強化を歓迎する。安全保障関連法を制定し、米国に限りなく傾斜した安倍政権を引き継ぐ菅政権が断るはずもない。

米国の武力行使に反対しない日本

もちろん日本には、米国の戦争を支持しない選択肢もある。しかし、安倍前首相は「日本は米国の武力行使に国際法上違法な武力行使として反対したことはありません」(15年5月26日衆院本会議)と述べている。過去に反対したことがないのだから、将来とも米国の戦争に反対することはないだろう。

だが、台湾有事は即日本有事に発展する。米国は日本を出撃基地および補給基地として利用できないとすれば、介入を断念せざるを得ない。日本が戦場となるのを避けるには、米国が繰り出すであろうさまざまな要求に対し、NOというほかない。

その一方で、日本は中国に対して武力による台湾併合を断念させ、国際秩序を重視する大国としての立場を自覚させる必要がある。ともに実現不能ともみえる困難な道だが、日本の政治家は返り血を浴びてもこの道を選ぶしかないだろう。

半田滋(はんだ・しげる)

防衛ジャーナリスト/元東京新聞論説兼編集委員。獨協大学非常勤講師。法政大学兼任講師。下野新聞社を経て、91年中日新聞社入社。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。